IT打ち合わせは異文化交流?現場・役員・ベンダーの「板挟み」を生き抜く社内SEの翻訳術

ITプロジェクトの打ち合わせ。同じ日本語を話しているはずなのに、驚くほど言葉が通じない――そんな経験はありませんか?
「調整」という言葉はスマートですが、現実は泥臭い「翻訳作業」と、全方位からの攻撃を防ぐ「防衛戦」の連続です。社内SEの役割は、単なるエンジニアではありません。暴走する「ロマン砲」を食い止め、肥大化する「魔改造」を削ぎ落とし、冷徹な「標準砲」を着地させる、孤独な「終戦調停官」なのです。
今回は、社内SEが直面する「三者三様の兵器」のリアルと、現場の平和と会社の財布を守るための矜持について解説します。
目次
1. 三者三様の「兵器」と、飛び交う異次元トーク
打ち合わせという名の戦場では、各勢力が異なる「理想の兵器」を求めて衝突します。
① 役員の「ハイパー・ロマン砲」
主張: 「これからはAIだ! ボタン一つで売上予測から在庫発注まで自動化しろ!」
本音の翻訳: 「投資するからには、株主や他社に自慢できるキラキラした成果が欲しい」
社内SEの視点: まともに撃てば予算が蒸発します。実効性よりも「見栄え」を優先する上層部のロマンを、いかに現実的なコストへ着地させるかが問われます。
② 現場の「魔改造・標準砲」
主張: 「標準でいいよ! でも、今のExcelと1ミリでも操作が違ったら困る。このボタンはここに移して。簡単でしょ?」
本音の翻訳: 「変化して失敗するのが怖い。新しいことを覚える余裕がない」
社内SEの視点: 要望をすべて聞けば、高コストの保守不能な「キメラ兵器」が誕生します。現場の「こだわり」という名のサンクコストとの戦いです。
③ システム会社の「鉄壁・標準砲」
主張: 「それは仕様外です。追加費用は500万、納期は半年延びます(真顔)」
本音の翻訳: 「面倒な開発はしたくない。リスクは負いたくない」
社内SEの視点: 彼らが守る「標準」という名のバリアを、いかに現場の納得感へと繋げるかが腕の見せ所です。
2. 交じり合う「IT語」と「現場用語」の第3言語
打ち合わせをカオスにする要因の一つが、言語の壁です。
社内SEは、システム会社のカタカナだらけの「IT語」と、職人魂あふれる「現場用語」を混ぜ合わせる「ハイブリッド翻訳」を駆使します。
システム会社(IT語): 「APIのレスポンス遅延により、デッドロックが発生します」
現場(現場用語): 「あの『くるくる』が長いの困るんだわ。データ登録直前の画面が『固まる』のは勘弁して」
社内SEはこれをこう変換し、両者に伝えます。
「皆さんが一斉にデータを登録すると、中でデータが『渋滞(現場用語)』して、最悪システムが『止まります(IT語の意訳)』。なので、今回は『自動交通整理機能』を標準機能で組み込みます」
打ち合わせの時はとにかく両社に伝わる内容で話をしないと、打ち合わせが進みません。IT語でシステムの整合性を保ち、現場用語でユーザーの納得感を引き出す。この「第3の言語」こそ、調整役の最大の武器です。
3. 私たちが本当に守っているのは「安定」と「財布」
全方位から飛んでくる「無理難題」を捌きながら、社内SEが孤独に戦い続ける理由。それは、単にシステムを導入することではありません。
私たちが死守しているのは、システムという「安定した現場」と「会社の財布」です。
「ロマン」と「こだわり」の代償は、すべてキャッシュで払われます。実現性の低い開発に数千万を投じ、魔改造のせいで将来の保守費が跳ね上がる。そのツケを払うのは、現場でもベンダーでもなく、私たちの会社です。
無理なカスタマイズを排除し、「本当に必要なカスタマイズ」だけを見極めて標準機能に接木する。そうして無駄な出費を最小限に抑えつつ、現場が明日も安心してボタンを押せる「安定」を守ること。この二つを両立させるシビアな「調整」こそが、私たちの真の職人芸なのです。
まとめ:財布の紐を握る「戦士」たちへ
打ち合わせが終わって、「結局、今日は何も決まらなかったな……」と虚無感に襲われることもあるでしょう。
しかし、あなたがロマン砲を撃ち落とし、無理な魔改造を却下したおかげで、現場は「壊れないシステム」を手にし、会社は「守られた利益」を手にしました。
「システムを動かすこと」以上に「現場の平和と会社の資産を潰さないこと」に貢献している。それこそが社内SEのプライドです。
明日も自信を持って「標準砲」を構えましょう。その手にあるのは、現場の平穏と、会社の大切な財布の紐なんですから。
